今週のお題は「間取り」ということで、前に住んでいた部屋の話をしようと思います。
アパートの退去
2020年12月、退職とともにアパートを退去しました。引っ越し当日は、トラックに荷物が載らなかったことで退去時間が押してしまい、載り切れなかった荷物の運び出しや、大家さんの最終チェック前の掃除など、感傷的な気持ちになる暇もないくらい慌ただしく作業を進めました。本来は夕方前に完了する予定でしたが、全ての作業が完了するころにはすっかり西日が差していました。次の予定もあったため速やかに靴を履いて玄関に立つも、扉を閉める前にふと、「これで最後か」と寂しさが押し寄せてきて、薄いオレンジ色を帯びた空っぽの部屋を写真に収めました。
この部屋に入居したのは、大学を卒業した年の3月でした。Uターンで就職したため、大学時代の賃貸を退去し引っ越してきました。アパートの場所は、中心街にある会社からから約3km離れた郊外で、小学校がある静かな住宅地でした。大学卒業前に帰省していくつかの部屋を内見した中で、一目で気に入り契約しました。
入居後、約5年間お世話になりました。社会人生活が始まってから、楽しくて大笑いした時間、辛くて泣いた時間など、様々な時間を過ごした思い入れの深い部屋でした。
入居の決め手
この部屋の契約にたどり着くまでは、少し時間がかかりました。元々住みたいと思っていたエリアの不動産仲介会社の車に乗って3件ほど内見に行きましたが、条件に設定した安い家賃では老朽化が目立つ部屋ばかりで、条件を見直して別の不動産仲介会社に足を運びました。その時におすすめされたのがこの部屋でした。築約30年の木造物件で、写真を見た時は建物の外観にはあまり惹かれませんでしたが、内見の時、元和室の佇まいが残る洋室にほっと落ち着ける空気を感じ、ここに住みたい!と思い、翌日に契約を決めました。
特に好きだったのは、収納の間取りでした。部屋は1Kで、キッチンと居間が引き戸で区切られているのですが、約9畳ある居間の壁1面が収納になっていました。おそらく押し入れだったと思われるのですが、柱で3つに区切られた空間は、ハンガーを掛けられるポール付の奥行きのある収納、棚付きの収納、引き戸付の収納に分かれていました。
奥行きのある収納はベランダに隣接していたので、日常着を、干す時にかけたハンガーのまま収納し、気に入った目隠し布を取り付けて使っていました。真ん中の棚付きの収納は、本棚にしたり、テレビやコンポ、レコードプレーヤーを置いたり、その時々で模様替えを楽しんでいました。そして、引き戸付の収納にはオフシーズンの服や布団の収納として使っていました。
黒く塗装された柱など、和室の佇まいが残っていることで、古民家に住んでいるような気持ちになれて落ち着きました。
お気に入りの場所
そんな大好きな部屋の中でも、お気に入りの場所がありました。1つは、ベランダにつながる窓辺です。アパートの道向いには小学校があり、窓の向こうは校庭の自然を眺めることができました。中心街のアパートだと、窓から見える風景が殺風景なことがありますが、この部屋からは季節ごとに色を変える花や木を眺めることができ、自分の庭を持っているような気持ちになっていました。校庭の自然を背景に借りている窓辺に、椅子やテーブルを持ってきて、本を読んだり、食事をしたりして、風や光を感じながら過ごす時間が好きでした。
また、ベランダでお香を炊くのも好きでした。白檀の香りのついた風を嗅ぐと、心を落ち着かせることができました。日常のふとした瞬間を愛おしく思える要素の1つでした。
もう1つ、お気に入りの場所がありました。それはソファです。
大学時代に借りていた部屋は、6畳のワンルームでソファを置く場所がなかったため、部屋にソファを置くことは1つの憧れでした。会社帰りに繁華街を歩いて、新しくできた商業施設に行くと、unicoというインテリアショップが入っていました。おしゃれな家具や雑貨が取り扱われているお店として、大学時代から知っていましたが、当時の所持金では予算外だったため、ネットで眺めて憧れるだけのお店でした。
そんなunicoが出店していたと知り中に入ると、ダイニングでもリビングでも使えるテーブルとソファのセットが、数種類展示されていました。はじめは革張りのソファを探していましたが、店員さんからアドバイスを頂いたり、何度も足を運んで座って試す中で、布を張り替えられることの利点や座り心地を気に入り、布張りのこのソファを購入することに決めました。食べるのにも作業をするのにも、ソファとテーブルの高さがちょうどよく、ソファに座って珈琲を飲む時間は、心がほっとしました。
さようなら、また会う日まで
大好きな部屋と別れるのは、大切にしていた時間が無くなる気がして辛かったです。この部屋を離れた後は、彼氏との同棲生活が開始することもあり、1人で生きることとのお別れでもあると感じていました。本を読んだり、音楽を聴いたり、お香を炊いたり、珈琲を飲んだり。生活の全てが私の支えでした。実家というものが自分で選べるとしたら、この部屋こそが実家だと思いましたし、そんな部屋を出て彼氏と同棲することは、2度と敷居を跨ぐことの許されない、お嫁入のような出来事になる気がしていました。
あの部屋で過ごした約5年の時間に戻ることはできないし、部屋もまた新たな借り手との時間を過ごすことになるでしょう。大切だった思い出は、帰る場所がなくなってしまった寂寞感とともに心の中とこの記事にそっとしまって、また新たな場所で、幸福の住処と思える部屋に出会えることを、待ち遠しく思っています。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。