藻のお暇

アラサー無職の日常

戻れない時間がくれる爽快感と癒し(映画『百万円と苦虫女』を見て)

【この記事の要約】

 100万円貯まったら引っ越すというルールで、知らない街を転々とする主人公・鈴子と同様、私も彼氏の転勤についていくことで、これからも知らない街と出会うだろう。終わりが来ることが分かっているからこそ、出会った人や自分と向き合い、新しい出会いを楽しんでいきたい。

※以下、ネタバレ注意です。

物語のあらすじ

 主人公・鈴子(蒼井優)は、100万円貯まったら引っ越すというルールで、知らない街を転々としていた。ある日弟からの手紙で、弟がいじめと戦うことに決めたと知り、鈴子は他人や自分から逃げていた自分の弱さに気づく。今度こそ現実と向き合って生きることを心に誓い、鈴子はまた新しい街へと向かうのだった――。

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他人と向き合うことに不器用な鈴子

 短大を卒業した後、就職浪人となりアルバイトをしていた鈴子は、バイト先の友人から実家を出て一緒にルームシェアをすることを提案されます。友人と物件探しをする鈴子はとても楽しそうで、希望に溢れていました。しかし、その希望は簡単に失われます。ルームシェア直前に、友人から友人の彼氏を含めた3人で住むことを知らされたからです。鈴子は仕方なく受け入れるものの、友人は彼氏と別れ、結局よく知らない友人の元彼と2人でルームシェアをすることになりました。

 ルームシェアを始めたばかりのある雨の日、鈴子が1人部屋にいると、ベランダに子猫が捨てられていることに気づきました。鈴子は里親を探すことに決め、子猫のために餌を買いに出かけます。しかし鈴子が帰ってくると、友人の元彼が帰宅しており、不機嫌な態度で子猫を捨てたことを告げられます。鈴子は慌てて子猫を探しに行きますが、子猫は雨の中道路脇で死んでいました。子猫を勝手に捨てられた鈴子は、ルームシェアの部屋から出ていくとともに、友人の元彼の荷物を全て無断で捨ててしまいました。そして、そのことを刑事告訴され、鈴子は前科持ちになってしまいます。

 短大にまで行かせてもらって就職浪人となっていることから、実家に居づらさを感じていた鈴子。前科持ちになって帰ってきたことで、より一層自分の居場所のなさを感じ、家族の前で「100万円貯まったら出ていきます」と宣言するのでした。

 実家を出てからの鈴子は、苦虫を嚙み潰したような困ったような笑顔で、自分の本音を言わず、波風立てずに生活するようになりました。笑ってごまかせば面倒なことにならないし、面倒なことになったら引っ越せばいいという態度で、100万円貯まったら次の街へと鈴子は転々としていきます。そんな生活を満喫している様子を、実家にいる小学生の弟へ手紙で知らせていました。

向き合うことから逃げることでお互いに傷ついた鈴子と中島

 とある郊外へ引っ越した時、鈴子はアルバイト先で中島(森山未來)という同い年の大学生と知り合います。共に働く中で、鈴子は中島に好意を抱くようになり、たまたま中島とお茶をした際、100万円生活をしていることや前科持ちであることを話してしまいました。しかしそのことがきっかけで、中島と両想いだったと知り、2人は恋人になります。

 中島と交際する中、鈴子の貯金は100万円目前まで貯まっていきました。そんな時、鈴子は中島からお金を貸してほしいと言われ貸すことに。それ以来、中島から金の無心が続く鈴子。不安になった鈴子は理由を聞くも、中島は答えてくれません。その無言の答えを受け取り、鈴子は別れを告げるのでした。

 中島に別れを告げ自分の家に帰ると、弟から手紙が届いていました。手紙にはいじめられたこと、反抗したらいじめっ子にケガをさせてしまい児童相談所に連れていかれたこと、それでもいじめに立ち向かうと決めたことが書かれていました。弟は、以前街で昔のいじめっ子に絡まれた鈴子が1人で戦っていたことを手本に、逃げないと決めたのです。鈴子は弟の決意を知り、本音をごまかして生きる自分を強いと勘違いしていたことに気づきます。

 自分の過ちに気づいた鈴子は、次の街では他人や自分から逃げずに生きていくことを心に誓い、アパートを出て新しい街へと向かいます。一方、別れを告げられた中島は、鈴子が100万円を貯めてどこかへ行かないように、金を無心していたことを言えずにいました。しかし、本音を隠したことで鈴子と別れてしまうことは間違いだと気づき、街を出ていく鈴子を追いかけます。駅の歩道橋の上から出ていく街を見下ろす鈴子、鈴子を見つけられず道向かいの歩道橋の下にいる中島。中島は本当のことを言えないまま、鈴子は街を出ていくのでした。

戻れない時間がくれる爽快感と癒し

  この映画を見て感じたことは、「不器用な鈴子はまた傷つくだろう」ということでした。物語の最後では、鈴子が他人や自分と向き合うことを決心して街を出ていく様子が、爽快に描かれます。一方で、いじめから逃げないと誓った弟が、学校で待ち構えるいじめっ子たちに向かって歩いていくという不穏な様子も描かれます。弟に関する不穏さは、鈴子の少し先の未来にも感じることができるでしょう。実家を出る前から他人と不器用な向き合い方しかできなかった鈴子が、また傷ついて失望することは、簡単に想像できてしまうように思うからです。

 しかし、鈴子がまた苦虫を噛み潰したような笑顔をすることはないかもしれません。傷ついても他人と向き合う、弟がそうするならば、といった決心を感じるからです。きっと鈴子は新しい場所で、傷つきながらも他人や自分と向き合って生きていくことでしょう。

 そうなると、私が1番応援したくなったのは中島です。中島は鈴子と一緒にいたい気持ちを伝えることができずに、物語は終わってしまいました。中島の最後が鈴子と弟と違うところは、向き合おうと決心してもその相手がいないところです。鈴子は新しい出会いに向かっており、弟にはいじめっ子がいますが、中島が鈴子と会うことはおそらくもうできないからです(鈴子は携帯を持っておらず、連絡の手段がないため)。あっけなく会えなくなってしまったことに、戻れない時間のさびしさを中島は感じたと思います。しかし、戻れないからこそ、新しい出会いに向き合うことが残されているとも言えます。そのことに中島が気づけた時、戻れない時間が中島を癒してくれるように思えます。鈴子に対して本音をさらけ出す決心をしたからこそ、中島には新しい出会いで素直になれるように応援したいと思います。

鈴子と自分を重ね合わせた部分と感じた事

 この作品は、大学時代に同じサークルの友人からおすすめされて見たのですが、ふと思い出して見直してみました。改めて見直すと、鈴子と同じような生活をしてきたことに気づきました。

 実家を出て10年になりますが、進学や就職のタイミングで、3つの街に住んできました。また、彼氏が転勤族のため、これからも彼氏についていく度に新しい街に出会うことになります。鈴子ほど短期間ではないものの、同じ土地に住み続けない分、人間関係が切れてしまうことはあるでしょう。どうせいつか終わる関係だからといって、本当のことを言わずにいれば、私も鈴子が逃げていた時のような笑顔をしているかもしれません。実際、彼氏の転勤でいつか辞めるからと我慢して仕事をしていた時は、私も”苦虫女“だったと思います。

 鈴子と同じように環境が変わることで、逃げられるタイミングが多いからこそ、”苦虫女“になっていないか、鏡に映る自分を見つめたいと思います。特に大切な人と向き合う時は、鈴子の決心や中島の後悔を思い出して、傷つくことを受け入れながらも、相手とつながろうとすることを諦めないようにしたいと思います。

その他細かい感想

★私もカーテン作ってみたいな

姉弟(きょうだい)っていいよな

★手紙を書く相手がいるのは楽しいだろうな

★今年は爽やかな夏の緑を感じに行きたい

蒼井優さんと森山未來さんの若い頃からの説得力のある演技がすごい

★エンディング曲が素敵(原田郁子さんの『やわらかくて きもちいい風』)

 

 以上、ここまで読んで頂き、ありがとうございました。